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2009.03.27

ライター追記@『スラムドッグ$ミリオネア』

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★ 海外発コラム★  『スラムドッグ$ミリオネア』     
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                                  TEXT by Reiko

 トレキャ!シネマ番付(09.03.27号)掲載コラム『スラムドッグ$ミリオネア』
のライター追記です。(コラムはメルマガバックナンバーでお読みいただけます)

インドでジャマール青年役探しが難航したのは、ボリウッド(インド映画界)の
若手俳優は皆、ジムに通って身体をバリバリに鍛えている肉体派が多く、
ハンサム過ぎて、「負け犬」には見えなかったから。
一方、この役に抜擢されたデヴ・パテルは、
ひょろっとした体型にドングリを思わせる髪型のコンビネーションが、
かなりいい線いってる(爆)かも。
しかし「負け犬」的風貌のせいで、主役に抜擢され、
その映画が世界的大ヒットするなんて、人生何が幸いするかわかりませんね。


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◆「スラム出身子役の生活環境は改善の方向とはいえ…」
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この映画のスラム描写には、インド人の間でも賛否両論があります。
「これぞ、まさしくインドなり」と肯定する文化人も少なくありませんが、
トロント映画祭でこの映画を観た、ある監督は
「欧米人は、インドを搾取と墜落の惨劇に満ちた不毛の地とみなすのが
 本当に好きだ。だが、我が美しきムンバイにあるのはそれだけなのか?」
と批判的。

でも、原作(外交官と作家を兼業するVikas Swarup 氏の「Q&A」、
邦訳は「ぼくと1ルピーの神様」)を脚本にするため、
インドまで3度も調査旅行に出かけたサイモン・ボーフォイ
(アカデミー、ゴールデン・グローブ、BAFTA[英国映画テレビ芸術アカデミー]他、
 脚本賞や脚色賞を総なめ)は、
ストリート・チルドレンにインタビューを行い、
その前向きな姿勢に感銘を受けたそうです。

彼は「こうしたスラムに溢れる陽気さ、笑い、饒舌さ、連帯感、そこから
感じ取った膨大なエネルギーを伝えたかった」と語っています。

そうした意図や個々の映画の受け止め方は別として、
実際のスラムには教育機会はおろか、
電気、水道などの生活設備や物質的豊かさが乏しいことは、
誰の目にも明らかでしょう。

こうした現実に加え、この映画に実際のスラム居住者の中から選ばれた
子役2人のうち、男子の父親は結核を患っており、
薪集めでの月収は40ポンド(約5700円)以下、母親は視覚障害者です。
 
この子役達には、30日間の労働に対し、現地成人の平均年収の3倍という
出演料が支払われた他、18歳になるまでの教育費と月20ポンドのお小遣いが
保証されています。
さらに、個人名義の信託基金に1万7500ポンド(約250万円)が拠出され、
18歳になった時点で元金+利子を受け取れる上、
家族も近く約2万ポンド相当のきちんとした家に移れる算段です。
私は、監督らが子役達の福祉と将来を熟慮し、周到に策定した、
この長期的な報酬支払い計画を非常に賢明な案だと思いますし、
女子の子役の父親は「(監督やプロデューサーには)娘のために、
(学校に通わせるなど)親がしてやりたかったことを、
はるかに上回ることをしてもらった」
と感謝しています。

ところが、男子の父親は
「息子が18歳になってから信託基金を受け取るのでは遅い。
 我が家には今、金が要るのだ。全額をすぐによこせ」
と言っているそうです。
 
確かに結核の治療などにお金がいるのだとは思いますが、
大金を持ったことがない上、まだ幼い息子を殴ったりすることもある、
封建的なこの父親に報酬全額を渡してしまったら、
どんなことに使われるかわかりません。
この家族が一生かかっても手にできなかったはずの大金を、
おそらく、あっという間に使い果たしてしまうでしょう。

それでは、
報酬の大半が子役の成長のために使われるよう監督達が配慮して、
出演料+毎月のお小遣いと教育費+信託基金という形に分散して
支払うようにした意味がないと思います。

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◆「映画出演で激変したある女性の人生」
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成長したラティカを演じたフリーダ・ピントはモデルで、
演技経験も知名度も皆無に等しい状態でした。
ところがこの映画の成功で、インド版「ヴォーグ」誌に
「スタイル・アイコン」と取り上げられ、
ウッディ・アレンの映画への出演も決定、
「ボンドガールに」という声もあるそうです。

キャリアが軌道に乗ったのと同時に、エンジニアとの婚約を解消。
デヴ・パテルとつきあっているとか…。

私は彼女の演技をまだ観ていないので、なんとも言えませんが、
ボリウッドで活躍するにはちょっと線が細いような気がするので、
「国際派女優」の線で成功できるといいですね。

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◆「タイトルを地で行く数奇な映画」
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実はこの映画、北米での上映権を持っていたワーナー・インディペンデント・
ピクチャーズ(WIP)の閉鎖により、あわや「映画館での封切りなしの、
即DVD発売」となる運命でした。
ところがWIPの親会社であるワーナー・ブラザーズが
フォックス・サーチライト社と同地域での販売権を折半する契約を
締結したため、テルライド映画祭、トロント国際映画祭などで上映され、
大きな反響を巻き起こし、当初10館での限定公開だったものが
32、614、1411と、あたかもジャマール青年の「クイズ$ミリオネア」での
快進撃を地で行くような成功を収めました。

映画が大きな話題を集めるのと平行して、「映画は大成功したのにスラム出身
子役の生活はあいかわらず惨憺たる有様である」とか「『スラムドッグ』とは
スラム生活者のみならずインド全体をも貶める蔑称である」などという批判の
声があがり、インド人制作関係者や出演者を裁判に訴えると息巻く弁護士も
出てきました。

全く私的な見方で恐縮ですが、インド人は良くも悪くも口が達者で、
弁護士も大勢いますから、有名人にいちゃもんをつける人には事欠きません
(女子テニスのサニア・ミルザ選手もこうした言いがかりの被害者の1人)。

そんな紆余曲折を乗り越え、英語圏の映画祭やオスカー、BAFTA、米批評家協会、
ゴールデン・グローブなどで作品賞や脚本賞、音楽賞などを総なめにして、
「負け犬」的状況から一転、興行収入の点でも評価の点でも大成功となったのも、
それ自体がまるで映画の筋立てのようですよね。

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◆「マドラスのモーツァルト」
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この映画で音楽を担当したのは、
日本でも『ムトゥ/踊るマハラジャ』でお馴染みのA・R・ラーマン。
彼が初めて担当した映画サウンドトラック『ロジャ』は「タイム」誌の
「史上最高の映画サントラ・トップ10」に選ばれているとか。

レコーディング・アーティストとしての国際的評価も極めて高く、
「マドラスのモーツァルト」とも呼ばれています。

ヒンズー教徒でしたが、家族の重い病気を機にイスラム教に改宗。
親しい友人の話によると「彼の関心は、1に神、2に自身の音楽にある」
そうで、それだけ聞くと、凡人の私にはとっつき難い人という印象ですが、
アカデミー賞の作曲賞とオリジナル歌曲賞を受賞した際のスピーチで
「人生では常に、憎しみか愛のどちらかを選択することを迫られましたが、
愛を選んで、私はここまで来たのです」と語りました。
ムンバイでのテロの記憶も生々しい中、非常に含蓄のある言葉だと思います。

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◆「クイズ番組司会者役の俳優裏話」
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この映画の中の『クイズ$ミリオネア』の司会者役は当初、
以前に私が「シネマ番付」でご紹介したこともあるボリウッドのスーパースター、
シャルク・カーンに打診されました。
彼は、インド版の同TV番組で実際に司会を務めていたんですが、
映画出演のオファーは辞退したそうです。
そりゃ、パロディでもない限り、
プロの俳優が本人役で映画出演しないですよね、普通。

で、代役を務めたのが、やはり人気者のアニル・カプール。
ヒーロー役もコメディもできる、私も好きな俳優です。
以前、どなたかのブログで「インドの井上順」と紹介されていて、
言いえて妙だと大爆笑しました。

ところがアカデミー賞授賞式に出席する映画人をコダック・シアター前で
呼び止めてインタビューする番組の1つを観ていたら、
「貴方は、インドのジョージ・クルーニーと呼ばれていて、
 どこへ行っても大勢のファンに囲まれているそうですが…」
とマイクを向けられていて、
「井上順とジョージ・クルーニーじゃ、全然違うじゃん
 (私はどちらも好きですが)!」(爆)と思いました。

最後になりましたが、この映画があの「大恐慌時代」にも匹敵する
と言われる深刻な経済危機の中で公開され爆発的なヒットとなったのは
非常に意義深いことだと思われませんか?

世界一の経済大国アメリカで最も豊かな州と言われるカリフォルニアで、
1年前まではミドルクラスの豊かな暮らしを謳歌していた人々が、
職も住まいも失い、テント生活を余儀なくされているような今だからこそ、
人々はこの映画に溢れる「希望」を歓迎したのではないでしょうか?
しかも、映画の成功を受けて、インド人孤児を養子に、あるいは、
財政援助をするにはどうしたらいいか?
という問い合わせも増加しているのは、
これが「見終わって気分がすっきりした」というだけの映画でないことを
証明していると思います。

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