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2010.07.11

海外TV事情(28) 米国ミュージカル・コメディ『Glee』

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連┃載┃コ┃ラ┃ム┃◇海外TV事情(28)ミュージカル・コメディGlee(米編)
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古今の大ヒット曲を斬新なアレンジと振り付けで再生させる手腕に脱帽。
今回は、英語圏での影響力は多大でも、日本でのリメイクはちょい難しそうな、
米国のミュージカル・コメディをご紹介します。

                      ◆
                      
「米国の学園ドラマ…苦戦しているアメフト・チームね…」
次男が暇つぶしに点けたTVを何の気なしに「聞いていた」私が、
Gleeワールドに引きずり込まれたのは次の瞬間でした。

ビヨンセの『Single Ladies』に合わせて踊り出したのは、ミニスカの
チア・ガールズではなく、ヘルメット以下、防護ギア一式をまとった、
ごっついアメフト部員達だったのです。
中には体重90kgはあろうかというメンバーも。

でも、Foxが2009年に放送を開始した、このドラマの主役は、
皆の注目を集めるチア・リーダー達でもアメフト部員でもなく、
むしろ、その対極にあるグリー・クラブ「ニュー・ダイレクションズ」
の面々なのでした。

この「glee club」、日本語で相当するのは合唱部ということになる
のでしょうが、『Glee』の合唱は、
「整列して、背筋を伸ばして…1、2、3!ハイっ!」
「♪知らなか~ったよ~、空がこんなにあお~いなんて…」
という類のものではありません。

英米の音楽ジャンルで「show choir(ショウ・クワイア)」と呼ばれる
この合唱は、舞台全体を使って、「見せる」要素をたっぷり加えた、
よりダイナミックなコーラス。

特に、第1シーズンの第1話から登場し、ニュー・ダイレクションズの
メンバーを圧倒する常勝チーム「ボーカル・アドレナリン」(爆。すごい
ネーミングですが、確かにそのパフォーマンスはアドレナリンの分泌を
促進しそう)なんて、演舞の組み立てを少し変えれば、チアリーディング
全国大会に出てもおかしくないほど、アクロバティックな振り付けが売り
のグループ(しかも大所帯)。

で、彼らを見て思ったのが、

1)あんなに激しく動いたら、息が切れて、音程が乱れないか?

ということと、

2)現実の米国社会でも長らく「オタクや変わり者の吹き溜まり」と
  見られていたグリー・クラブに、バク転ができる男子や、踊れる女子
  があんなにいて、いいものなのか?

ということ。
 
ま、

1)は歌と振りで担当を分け、リードシンガーの動きは控えめに
  すればいいし、

2)は大会前から当日まで、体操部やチア部の応援を頼めば、
  解決するのかもしれませんけど。

でも、それはあくまでボーカル・アドレナリンのような華のあるクラブの話。
ニュー・ダイレクションズの場合、真っ先に入部を申し込んだ5人は、
グリー・クラブのメンバーとしては、むしろ「正統派」、つまり
校内でいじめに遭ったり、疎外感を感じているような学生達…
という設定なのです。

簡単にご紹介すると、


・レイチェル…思い込みが激しく、スターを夢見て猪突猛進…という姿勢が
        「イタ過ぎ」と、日々コケにされている。

・メルセデス…声、身体、態度と3拍子揃った「スケールの大きさ」(笑)で、
        視聴者を圧倒するアフリカン・アメリカン。

・カート…中性的だという理由で異端視されている。
     アメフト部員に『Single Ladies』の振り付けを指導したのが彼。

・アーティ…事故の後遺症で幼少期から車椅子生活を送っている。
       余談ながら、ホーキング博士の学生時代はこんな感じか?

・ティナ…言語障害のある韓国系。アーティと仲良し。


でも、私がこのドラマを見始めたのは、冒頭にご紹介したダンス・シーン、
第4話以降だったため、ニュー・ダイレクションズには、既に、
アメフト・チーム一の花形ポジション、クォーター・バック(QB)を務める
人気者のフィンが加わっていました。

米国の学園物をよくご覧になる皆さんはご存知ですよね?

QBというのは普通、ルックスにも恵まれ、ちやほやされる
存在なわけですが、「自分は特別」と勘違いしている
驕慢な青年という役どころである場合も多いのです。

で、彼女はたいてい、チア部のリーダー格で、「学園一、
ゴージャスで、お似合いの2人」と見られたいがために、
表向きはカップルとして振る舞い、それなりの関係もあったり
するのですが、裏ではお互い、他の子達とも遊んでいるし、
自分の取り巻き以外の学生は虫けら扱い…という、
どーしようもなく浅はかな学生の代表として描かれているのが、
QB&チア・リーダーなわけです。

ところが、この『Glee』の男性リードとなるフィンはもう、超いい奴。
「て言うか、バカじゃね?コイツ」という見方もあるでしょう、確かに(笑)。
「大男、総身に知恵は回りかね」を地でいくリアクションも多いし、
スペイン語の授業の時なんか、恍惚の人と化してるし(←ちなみに、
この表情がツボにはまってしまった私)、

チア部のプリンセス的存在である彼女のクインから、エッチもして
ないのに、「あなたの子を妊娠した」と告げられ、
「んなアホな…」としか思えない説明を信じ込まされたり。

でも、彼が第1話で、アメフト部の馬鹿者達によって屋外トイレに
閉じ込められたアーティを救け出し、いじめの傍観者だった自分と
決別した時の台詞には、マジ痺れました。

学生にとってはおそらく「全世界」である学校を、こんな風に俯瞰的
かつ長い時間軸における一地点と位置づけられるティーンエージャー
って、あまりいないんじゃないかと思います。

その点でフィンは、学業成績は芳しくなくても、一種の賢人と言える
かもしれません。

あと、このドラマの登場人物の中で、どうしても触れておきたいのが、
グリー・クラブを廃部に追い込むため、あれこれ画策するチア部顧問
のスー・シルベスター女史。

どんな国のドラマを見ても、体育教師はたいていジャージ姿で登場
しますが、女性ではめずらしいですよね。しかも、彼女の手に拡声器
が握られており、そのスパルタ指導により、チア部は連勝中…という
設定なんですが、スーの発言は差別語&言い様のない毒気に満ち満ちて
おり、これを最近同性婚を公表したジェーン・リンチが怪演しています。

このスーという女性、チア部のスターであるクインに
「お前は私の若い頃を彷彿させる」と言って、
微妙な雰囲気を作り出したり、

「私が特殊部隊の一員として中米に派遣された時は…」なんて話で、
視聴者の目を白黒させたりという異色キャラです。

「元チアリーダーの特殊工作員」て、「オタクのバク転」と同じか、
それ以上に違和感ありません?

でもスーという人は、視聴者に「なんでそんな意地悪なこと言うの?」
と思わせる一方で、「浅はかなチアリーダーがそのまま大人になった」と
いう感じではなさそうです。その辺のひねりも、このドラマの見所だと
私は思います。

あと、グリー・クラブのメンバーは皆、本当に歌がうまいんですけど、
実年齢19歳でも、こんなにきれいな高音が出せるのかと感心したのが、
カート役のクリス・コルファー。

実は彼、別の役のオーディションを受けに来て、プロデューサーの目に
留まり、カートという全く新しい役柄を設定させてしまったという、
すごい才能と存在感(小顔で細身ですが)との持ち主です。

小さな町でゲイであることを公言できずにいた実体験を基にした
繊細な演技も好感が持てますし、私が読んだインタビューでは
言葉の選び方などに知性が感じられ、早くも「『Glee』卒業後、
この子は一体どんな道に進むんだろう?」と期待を抱かずには
いられません。

実は私、同じカテゴリーに属し、数年前に大ヒットした米ドラマ
ハイスクール・ミュージカルには、全く関心が持てなかったんです。
女性の登場人物の歌い方が、いかにもミュージカル然としていて、
どの歌も同じに聞こえちゃって…。
 
でも、『Glee』では古今の名曲がそれぞれ巧みなアレンジで
生まれ変わっていますし、いかにもコメディらしい、はちゃめちゃな
展開の中に、思わず「至言であるな~」と感動する台詞があって、
奥が深いのです。

このドラマ、オンタイムの視聴率は飛び抜けて高いというわけでは
ないらしいんですが、音楽界に与える影響力が多大ということでも
話題を集めています。

「オールディーズ」専門のラジオ番組か、カラオケで時折リクエスト
されるだけだった、60年代から80年代にかけてのヒット曲が、
『Glee』で取り上げられることにより関心を集め、デッドストックと
化していたオリジナル・アルバムが突如売れまくったり…という
ことで、この番組から「楽曲使用を許可してほしい」という声が
掛かるのを待っている往年の歌手やバンドは少なくないとか。

また、『Glee』キャストによるバージョンは計400万回以上
ダウンロードされているだけでなく、コンピレーション・アルバムも
既に140万枚以上の売り上げを記録しています。

どんな曲がフィーチャーされているかは、ウィキペディア情報をご覧ください。
これだけジャンルや年代に幅があれば、
『Glee』の登場人物と同世代だけでなく、二世代あるいは
三世代にまたがる視聴者の囲い込みに成功しているのも
無理はありませんよね。

また、海を越えた英国各地では、『Glee』の影響で、様々な
世代をメンバーとするグリー・クラブが雨後のタケノコのように
増加中とか。

この調子では、しばらく『Glee』旋風は吹き荒れそうです。

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