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2011.09.25

『Tolong! Awek Aku Pontianak!』(マレーシア編)

『Tolong! Awek Aku Pontianak!』
(「助けて!僕の彼女はポンティアナック!」)』

                          Text by Reiko

『瘤取り爺さん』や『鶴の恩返し』から、『妖怪人間べム』を経て、
北米ドラマの『Blood Ties』や『The Gates』まで、
人間と、それ以外の存在の共生や交流に惹かれる傾向はあっても、
「観客を怖がらせることが唯一の目的」みたいなホラー映画は、
全く受け付けられない私。

『Blood Ties』関連サイト(英語)
『The Gates』関連サイト(英語)

一方、私が住むマレーシアでは、霊に憑かれれたという人の話や、
学校・職場で起きた集団ヒステリーの話などが
全国紙に取り上げられたりすることもあり、
ホラー映画ファンが一般人口(特に多数派のマレー人)に
占める割合はかなり高いと思われます。

とはいえ、国内映画市場の規模や予算、見ごたえのある映画を制作
できる人材(特に脚本家)不足などもあって、
昨今のホラー映画過飽和状態については、
「低級な映画でも観に行く観客がいるから、同じような駄作が次から
 次へと制作・公開されるのだ。その国で制作される映画の質は観客
 の知的レベルに見合ったものにしかならない」
という辛口の批評がされるほど。

ただし、コアなホラー映画ファンは、米国や日本、韓国、タイなどで
制作された作品を好むらしく、マレーシア映画界は現在、ホラーとい
うよりホラー・コメディが主流になってきています。

今回ご紹介する『Tolong! Awek Aku Pontianak!』もホラー・コメディ
に分類される作品で、「映画コラムを執筆するなら、食わず嫌いはダメ
だよね。とにかく偏見を持たずに観てみよう」と思ったわけですが…。

◆『Tolong! Awek Aku Pontianak!』関連サイト(英語)

結果は…、ムムム…。

インターネットなどにも好意的なコメントが寄せられたりしていました
し、我が家の長男や夫も「まあ、いいんじゃない」ということだったん
ですが、何だかなあ…。

これは、私がマレーシアの映画制作陣に
「単に国内で商業的に失敗しない - という消極的な姿勢ではなく、
 国外の映画ファンにもアピールするような映画を作る心意気を
 見せてほしい」
と期待していることの裏返しかもしれないのですが...。

いくつかシーンを割愛して、第三者の発言という形で
あっさり片付けられていた状況を具体的に描いた方が、
主役の2人の絆が強まるのをもっと説得力ある形で
自然に描けたのにと思ったり、
コメディだからって、脇役達の髪型をこんな形する必要があるのか
(喜劇役者は笑われるのではなく、笑わせるのが仕事だろ)?と思ったり、
大人のコスチューム・パーティのはずが、なぜかハロウィーンで
仮装した子供みたいに見えるのはなぜだろう?と思ったり。

でも、キャスティングは悪くないと思います。

誰に対しても誠実で、職場でも勤勉かつ発想豊富でありながら、
お人よしが災いして、無能な上司に手柄を横取りされるボブには、
多彩な役柄をこなせると評価上昇中のザヒリル・アジム(Zahiril Adzim)。

呪いをかけられポンティアナック(マレーシアの民間伝承に登場する
魔性の存在で、難産の末に命を落とした女性の霊がこの世を彷徨い、
人[通常は男性]の内臓を食らう)に変えられながらも、
大都会クアラルンプールの片隅で、人を殺めず、
ひっそり暮らす美人姉妹のマヤとリヤナには、
サジー・ファラック(Sazzy Falak)とリヤナ・ジャスメイ(Liyana Jasmay)。

特に、この世のものとは思えないほど(笑)大きな眼を持つサジーが、
敢えて無表情に演じるマヤはミステリアス。

一方、妹のリヤナはコケティッシュ。軽薄で気取った印象を与えるクアラ
ルンプールの若者言葉がすっかり板についているという設定です。

でも、この映画で圧倒的な存在感を放つのは、
マヤ&リヤナの邪悪な姉、ナディア役のヌルル・ワハブ(Nurul Wahab)。

メークも、赤を基調とした衣装(マレーシア航空やシンガポール航空の
キャビン・アテンダントの制服に用いられているケバヤもしくはクバヤ
と呼ばれるデザイン)も表情も、妖艶な女性に身を変えて
獲物をおびき寄せるポンティアナックに、まさにぴったり!

彼女のプレゼンスというのは、
チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』に悪役で登場し、
主役の3人を完全に食ってしまったデミ・ムーアのそれに近いと思います。

この作品、全体的に見て、
自信を持ってお薦めできる水準に達しているとは思えないのですが、
「もう観ちゃったよ」という方や世界の怪談に興味のある方向けに、
以下、ポンティアナックについてのトリビアをご紹介します。

「ポンティアナック(Pontianak)」という言葉はマレー語の
「Perempuan(女性)+Mati(死)+Beranak(出産)」の短縮変化形
と考えられています。

そこで、難産で命を落とした女性がポンティアナックになって、
この世を彷徨い続けないよう、お葬式の時には以下のような予防策が
取られるといいます。

ポンティアナックの特徴である甲高い叫び声があげられないよう、
遺体の口にガラス玉を収める。

ポンティアナックとなって飛行しないよう、脇の下に卵を収めるか、
手中に針を握らせる。

ポンティアナックの存在を告げるのは、犬の鳴き声、ポンティアナック
自身の泣き声・叫び声、プルメリアの芳香に続くとてつもない悪臭などで、
ポンティアナックが遠くにいる時は、犬が激しく吠え、
ポンティアナック自体の金切り声も大きく聞こえ、
逆に、それが近くにくると、犬は哀れっぽくクンクン泣き、
ポンティアナックもすすり泣いているように聞こえる-と考えられているようです。

1977年に出版された短編集「The Consul’s File」の中で、
Paul Therouxという人が、ポンティアナックは、
夫が夜鷹・街娼と関わりを持たないよう、
マレー系の女性達が創作した魔物であると、推測していて、
なるほどと思いましたし、この『Tolong! Awek Aku Pontianak!』にも、
いかにもそれらしいシーンが登場します。

ポンティアナックは鋭い爪で獲物の腹部を切り裂き、臓器を貪り食らうと
言われているほか、襟足に穴があって、そこに釘が刺さっている限りは、
美しい女性の姿を保てるけれど、釘を抜いた瞬間、恐ろしい形相に戻って
しまうとか…。この点を抑えておいていただけると、この映画を観た時に、
「おっ、そういうことか」と納得できるはず。

また、ポンティアナックは、インドネシアでは一般にクンティアナックとか、
短縮形でクンティと呼ばれており、インドネシア人の中には、
「ポンティアナック?それを言うなら、クンティアナックだろ?ポ
 ンティアナックはカリマンタン州(ボルネオ島南部)の都市の名前」と、
あたかもマレーシア人が勘違いしているように言う人もいるようですが、
インドネシアのポンティアナック市も実は、そこに初めて居を構えたサルタン
(国王)が、この魔性の存在に付きまとわれたことから、
そう名付けられたそうです。

また、シンガポールでもポンティアナックに関わる伝承や目撃談には事欠き
ませんし、タイにはポンティアナックによく似たPhi Song Nangという魔物が
いて若い男性を襲うという言い伝えがあるようです。

インターネットのポンティアナックに関するサイトには、
メキシコから「こちらには、ポンティアナックと同じような特徴を持った
la Lloronaと呼ばれる魔物がいる。ただし、la Lloronaは赤子を溺れさせて
しまった母親の霊が、その子を探し続けているのだそう」
という投稿がありました。

また、フィリピンにはティヤナックまたはティアナックと言って、
ポンティアナックと発音の似た魔物がいるらしいのですが、
こちらは赤ちゃんの姿と泣き声で獲物をおびき寄せる吸血鬼の一種だそうです。

今回は、本業が立て込んだせいで、原稿執筆が遅れたおわびと、
ハロウィーンを意識して、
「ポンティアナック・トリビア版」としてお送りしました。

◆『Tolong! Awek Aku Pontianak!』関連サイト(英語)

今回も、なぜか公式サイトが見つかなかったのですが、
英語レビューのうち、上記はかなり詳しく書かれていた上、
写真も多数紹介されていたので、ご紹介します。

このサイトには、トレーラーに加え、挿入歌のビデオも含まれています。

『Blood Ties』関連サイト(英語)

『The Gates』関連サイト(英語)


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