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2012.03.27

『Hafalan Shalat Delisa』(インドネシア編)

【海外発!シネマ情報】 TEXT by Reiko

関連サイト

2004年12月26日、北スマトラ西岸沖で発生したマグニチュード9.3の大地震に
より、インド洋沿岸は大津波に襲われました。
13ヵ国で推定23万人が犠牲となったこの巨大地震・津波により、
最も甚大な被害を被ったのが、スマトラ島北端のアチェ州(インドネシア)です。

この映画の主人公は、同州のLhokngaという町(震災を境に人口が7500人から
400人に激減した)で、快活に毎日を過ごしていたデリサちゃんという6歳の少女。
 
地震と津波が町を襲った時、彼女はイスラム教のお祈りの言葉を暗唱する
試験を受けていました。

母や3人の姉、友達に加え、片脚を失ったデリサちゃんが、
その試験に再挑戦できる日は、いつやってくるのでしょうか?

                ◇

この映画は2004年12月26日のスマトラ西岸沖巨大地震・インド洋大津波
発生から7周年を記念すべく制作されたもので、
本国(インドネシア)では2011年12月に公開されました。

原作は、Tere Liye(とあるボリウッド映画の挿入歌名をペンネームにしている
のが面白い)という作家による同名のベストセラー小説。

タイトルのHafalanは「暗唱」、Shalatは「祈り」という意味で、
Delisaは主人公の少女の名前ですから、
邦題を付けるとすれば『デリサの祈り』という感じでしょうか?

大半の日本人は、祈りといえば、
「○○が~します/~になりますように」といった、
主語や~の箇所を自由に置き変え可能なシンプルなフレーズを
思い浮かべると思いますが、
イスラム教徒は一定の言い回しを暗唱する必要があるようです
(興味のある方は、このサイト{英語}をご覧ください)。

私の住むマレーシアでは、イスラム教徒の家の子供達が5、6歳になると、
ご近所のウスタズ(Ustaz、男性のイスラム教師)や
ウスタザ(Ustazah、女性のイスラム教師)と呼ばれる先生のお宅で、
週に数回、こうしたお祈りの言葉(アラビア語)、
ジャウィ文字(マレーシア語/インドネシア語表記に用いられるアラビア文字)
の読み書き、イスラム教徒としての基本的知識を学び始めます。

ジャウィ文字一覧はこちら

私と夫は夕方、1時間ほどウォーキングに出掛けることがありますが、
家を出る時には、日本の子供達と変わらない、屈託のない表情で、
キャッキャッと騒いでいた子達が、夕闇が迫る頃には別人になり、
すれ違い様に挨拶されて初めて
「何だ、○○ちゃんか~!全然分からなかったよ」と、びっくりしたりします。

きちんと沐浴を済ませ、男の子はバジュ・ムラユ(上下共布のマレー系男子
の正装)にソンコックと呼ばれる帽子を被り、
女の子はバジュ・クロン(くるぶしまでのスカートと丈の長いオーバーブラウス
の2ピース)を着て、
頭巾(マレーシアではトゥドゥン、インドネシアではジルバブと呼ぶ)を被り、
ウスタズ/ウスタザの家に向かう子達は、
顔つきもどこか神妙で大人びています。

バジュ・ムラユの画像はこちら
ボリウッドのスーパースター、シャルク・カーンや、
米国のタレント発掘番組『アメリカン・アイドル』のファイナリスト、
デヴィッド・アーチュレッタ、
韓流スター達にバジュ・ムラユを着せたものもあり、楽しめます。
ちなみにソンコックは、このサイト中、
一部の画像で男性が被っている、つばのない黒い帽子。

バジュ・クロンについては、URLが長いのと、よりおしゃれ着的な印象のある
バジュ・ケバヤを含めた画像一覧になっているので割愛しましたが、
興味のある方は「Baju kurung」で画像検索してみてください。
 
日本に住むトレキャ!読者の方はおそらく「お祈りの暗唱」とか、
児童が通う宗教教室と言われてもイメージがわかないだろうと思ったので、
前置きが長くなってしまいましたが、
『Hafalan Shalat Delisa』の主人公、6歳のデリサちゃんも、
こうしたお祈りの言葉を暗唱しようとしていました。
暗唱試験に合格すれば、両親からペンダントをもらえることになっていて、
4人姉妹中、それをまだ手にしていないのは、
末っ子の彼女だけだったからです。
 
実を言うと、今回は別の国の映画をご紹介しようと思っていました。
でも、校正段階で「はじめに」(By編集長代行MARS)を読み、
急遽予定を変更したのです。

冒頭でご紹介した関連サイトから見られるものとは別バージョンの
テレビCMのトレーラーで見た子役の愛らしさと演技力が
印象に残っていたのも一因です。
 
で、調べてみると、デリサ役のChantiq Schagerlちゃんは、
この映画がデビュー作というではないですか!
これまで、インドネシアの子役は「なんかわざとらしいな~」
「変な癖がついてないか?この子達…」と思うことが多く、
感情移入できることがほとんどありませんでしたが、
チャンティちゃんは例外でした。

インターネットのレビューを見ても、
「快活で屈託のないデリサの性格が生き生きと表現されている」、
「デリサに惹かれない観客はまずいないだろう」と好評でした。
 
また、外国籍のタンカーの乗員で、
大津波の日は故郷を離れていたデリサの父親役のReza Rahadianは、
2010年にチトラ賞(インドネシア版アカデミー賞)、
最優秀男優賞を受賞した実力派です。

この2人の主役はきっちり役柄を演じ切っていると高く評価され、
他の出演者についても概ね「まずまずの演技」と及第点が付けられる一方で、
「一部過剰な演技が目に付き、残念」という声もありました。
 
この映画の舞台となったインドネシアのアチェという地域に関し以前は、
「原理主義的なイスラム教徒が力を持ち、女性や社会的少数派の人権が
抑圧されているところ。インドネシアからの分離独立を目指し、
長く紛争が続く地域」
といった漠然とした印象しか持っていませんでした。

でも、この映画のトレーラーには、震災前の場面として、
私が住む地域とよく似た風景が描かれていて、親近感を覚えました。
椰子の木が散在する砂浜、強烈な陽射しと青い空に映える色とりどりの服…。
何かを学ぼうとする子供の力になりたいと願い、
我が子の晴れの舞台を誇らしさと緊張の入り混じった面持ちで見つめる
親達の息遣いも感じられ、
「あ~、こういう感情は世界共通だろうなあ」と思ったのです。

一方、アチェには、1976年以来、自由アチェ運動(GAM)による独立紛争で
1万7000人が命を落とし、和平をもたらす契機となったのは、同地域だけで
17万人が犠牲となった1994年のスマトラ西岸沖巨大地震・インド洋大津波
だったという、過酷な現実が存在します。

人々の認識が「紛争地」から「被災地」に変わり、ようやく平和が訪れると
ともに、物理面では復興の進むアチェですが、
住民の90%以上が亡くなった地域もあり、
土地所有権や震災孤児をめぐり新たな課題を抱えているようです。

また、州議会が姦通罪で有罪となった者に対し
石打ちによる死刑を適用する法案を可決したり、
州副知事の命令で、イスラム法警察が
バンクロック・ファン(男性59名、女性5名)を逮捕し、
男性は丸刈り、女性はショートカットにした上で、
湖での沐浴、着替え、礼拝などを強制する10日間の「倫理更生キャンプ」
を実施したりして、話題となっています。(関連記事はこちら

もともと原理主義的なイスラム教が崇拝されている地域に、
震災を機に外国の救援活動組織などがもたらした
「異質・異端」文化が浸透・拡大するのを恐れた措置とも言えるでしょうし、
最近は、昨年来の北部アフリカ・中東の民主化運動「アラブの春」の影響が
飛び火するのを警戒しているのかもしれません。

『Hafalan Shalat Delisa』は、
世界最大のイスラム人口を擁する国、インドネシアで制作され、
アチェという宗教色のとりわけ強い地域を舞台としている映画ですから、
宗教倫理や教訓の占める割合がかなり高くなっているとは思います。
でも、復興や再生、癒しといった観点から見れば、東日本大震災で
大きな痛手を負った被災地の皆さんや、日本人一般を
何らかの形で励ましてくれるのではないかと期待しています。

昨年は、日本以外でもニュージーランドやトルコで大きな地震がありましたし、
2010年にはハイチや中国内陸部でも甚大な被害が出ています。

世界各地の被災者が、愛する人や我が家、故郷、思い出を
失った悲しみを共有するだけでなく、互いに励まし合い、
復興のビジョンや、宗教・言語の違いを超えた連帯感や友情を
構築することができればいいなと切に願います。

昨年12月、巨大地震・大津波の発生から7周年を迎えた
アチェ州アチェ・ブサール地域には、
日本から寄せられた5000本の黄色い紙の花が植えられたそうです。
これは16年前の阪神・淡路大震災で孤児となった方々が中心となり、
震災の記憶を未来に伝え、人と人のつながりを育むため、
メッセージ入りの紙の花「シンサイミライノハナ」を作り、
被災地に送るプロジェクトの一環でした。

「シンサイミライノハナ」プロジェクトに関してはこちら
 
被災地同士で、伝統芸能やその土地の舞台にした映画を交換し、
上演・上映し合う試みなどがあってもよいのではないかと思います。


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